大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和59年(オ)543号 判決

上告人

伊藤建設株式会社

右代表者

伊藤郁郎

右訴訟代理人

狩野一朗

水島林

被上告人

日産基礎株式会社

右代表者

堂野信明

右訴訟代理人

井門忠士

信岡登紫子

主文

原判決中、被上告人の上告人に対する反訴請求のうち一二〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じた部分を破棄する。

前項の部分に関する被上告人の控訴を棄却する。

上告人のその余の上告を棄却する。

訴訟の総費用は、これを二分し、その一を上告人の、その余を被上告人の負担とする。

理由

上告代理人狩野一朗、同水島林の上告理由について

一上告人の本訴請求について、上告人は本件請負契約に係る工事(以下「本件工事」という。)のうち約八五パーセントにあたる部分を施工し、その余の部分は工事をせずに放置したものであつて、上告人は被上告人に対し請負代金合計八一一万二二〇〇円の八五パーセントに相当する六八九万五三七〇円から被上告人の弁済に係る五五〇万円を控除した一三九万五三七〇円の請負代金請求権を有するにとどまるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。

二ところで、被上告人が反訴において請求原因として主張するところは、(一) 上告人は、本件工事を約定の完成日までに完成しないで放置した、(二) そこで、被上告人は、他の業者に右の未完成工事を代金一九七万九九〇〇円で請負わせた、(三) よつて、被上告人は、上告人に対し、本件工事を中途で放置した債務不履行に基づき、右工事の完成に要した費用一九七万九九〇〇円のほか上告人の工事遅延による損害金二七四万五〇〇〇円合計四七二万四九〇〇円の支払を求める、というのである。そして、原審は、反訴について、被上告人は未施工部分を他の業者に発注施工させて本件工事を完成するのに一三一万四九〇〇円を要したとの事実を確定し、右事実に基づいて、上告人は被上告人に対し未施工部分の工事による損害として一三一万四九〇〇円の支払義務があるとし、本件工事の遅延に伴う損害金二四万五〇〇〇円の支払義務と併せて、右の合計一五五万九九〇〇円及びこれに対する昭和五五年一〇月一八日から支払ずみまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の部分を棄却した。

しかしながら、右判断は、そのままには是認することができない。その理由は、次のとおりである。

請負において、仕事が完成に至らないまま契約関係が終了した場合に、請負人が施工ずみの部分に相当する報酬に限つてその支払を請求することができるときには、注文者は、右契約関係の終了が請負人の責に帰すべき事由によるものであり、請負人において債務不履行責任を負う場合であつても、注文者が残工事の施工に要した費用については、請負代金中未施工部分の報酬に相当する金額を超えるときに限り、その超過額の賠償を請求することができるにすぎないものというべきである。

これを本件についてみると、本件請負契約は、上告人が工事の約八五パーセントを施工したがこれを完成しないまま契約関係が終了し、上告人は約定の請負代金の八五パーセントに相当する金額を請求することができるにとどまるのであるから、被上告人は、未施工部分の完成に要した費用一三一万四九〇〇円全額を債務不履行に基づく損害賠償として請求することができず、その損害賠償としては右金額から当初の請負代金である八一一万二二〇〇円と工事出来高に相当する六八九万五三七〇円との差額一二一万六八三〇円を差し引いた九万八〇七〇円を請求しうるにとどまり、したがつて、被上告人は、反訴請求として、上告人に対し、右九万八〇七〇円と工事遅延による損害二四万五〇〇〇円との合計三四万三〇七〇円及びこれに対する遅延損害金の賠償を請求することができるにすぎないのである。しかるに、第一審判決は、未施工部分の完成に要した費用として右九万八〇七〇円を上回る一一万四九〇〇円に前記の工事遅延による損害額を加えた合計三五万九九〇〇円及びこれに対する遅延損害金を認容している。しかし、この点は、上告人から控訴も附帯控訴もないため被上告人に不利益に変更することが許されない。

そうすると、原判決は、反訴請求を認容した一五五万九九〇〇円のうち右三五万九九〇〇円を超える一二〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じた限度において、理由不備の違法があり、破棄を免れず、論旨は、この点の違法をいう限度において理由がある。そして、原審の適法に確定した事実関係によれば、被上告人の反訴請求のうち右の部分は失当として棄却すべきものであり、結論においてこれと同旨の第一審判決は正当であつて、右部分についての被上告人の控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。

三よつて、原判決中、反訴請求のうち未施工部分の工事による損害金一二〇万円及びこれに対する遅延損害金の請求を認容した部分を破棄し、右破棄部分につき被上告人の控訴を棄却し、その余の部分については論旨は理由がないから本件上告を棄却することとし、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、九二条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大橋 進 裁判官木下忠良 裁判官鹽野宜慶 裁判官牧 圭次 裁判官島谷六郎)

上告代理人狩野一朗、同水島林の上告理由

第一点 原判決には理由に齟齬乃至は理由不備の違法がある。

一、原審の確定した事実によれば本訴請求について、上告人の請負つた本件工事は一応の完工をみたものの、擁壁の基礎や整地が十分でないため本件工事の完工程度は結局約八五%であつたと推認されるとして、上告人の八一一万二二〇〇円の請求のうち六八九万五三七〇円のみを認めている。

他方、原審は反請請求について、上告会社において施行の擁壁の補修等を訴外西宮住建及び同ライフ、同堂見工業所に施行させて完成し、合計一三一万四九〇〇円を要したことが認められるとして上告人にこの金額の負担を命じている。

もともと本件契約は出来高払いであり、上告人の工事出来高が八五パーセントであつて、被上告人の上告人に対する支払うべき請負代金が総請負金の八五パーセントであるというのであるから、それ以後工事完成までに要した費用を上告人に負担させるということは理屈に合わない。

例へば、

原審の考え方を押し進めると五〇パーセント施行した請負業者が後の五〇パーセントを完成させた他の業者の工事費用まで負担しなければならない結果となる。

そしてこれに対する原審の説明は何もない。

従つて、原判決の右本訴請求と反訴請求の各判断はその相互間において理由齟齬ある違法なものとして破棄されるべきである。

二、原審は訴外堂見工業所に対する本件擁壁の補修整地等に要した費用を一二〇万円とし、上告人の負担だとしている。

その理由は乙第二六号証の領収書の一八六万五〇〇〇円から甲第一二号証、乙第四二号証の右上段に記載されている金額六六万五〇〇〇円を控除した残額は全部上告人の工事の補修等に用したものと判断しているからである。

しかしながら、これは如何にもずさんな判断の仕方であつて、

例へば、

堂見工業所が上告人の工事の補修等の工事をしたという確かな証拠がないばかりか却へつて乙第二八号証に出てくる上告人の工事以外の大島木材の分として堂見工業所に払われた三三万七〇〇〇円及び石井邸の分として払われた三万円も乙第二六号証の領収書の金額の中に含まれている可能性が非常に強いにもかかわらず、これについて何等理由の説明もなく、右のように単純に乙第二六号証の金額から甲第一二号証、乙第四二号証の右上段金額を差引いた差額を上告人の工事補修金額だと判断している。

これは、原判決の右判断は理由不備の違法があり破棄されるべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例